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2025年度ゼミ成果展 作品紹介3

「Parallel Lines」

作:藤田和奏

本作品は、アメリカ・韓国・中国という、文化も社会システムも異なる3つの国で記録した日常の断片を、再構築したメディアアートである。画面を3分割し、それぞれの都市の風景を同時に提示することで、観客は異なる時空を一度に旅する体験をすることになる。

一見すると、街に溢れる看板の文字、行き交う人々の装い、聞こえてくる言語には明らかな「違い」が存在する。しかし、それらを並行して見つめ続けると、不思議な共通点が浮かび上がってくる。揺れる車窓から見える街並みや、みんなで食事を囲む手元、暮れていく夕日。そこには、国境を越えて共鳴する「生活のリズム」が流れている。

私たちは普段、自らの日常を唯一無二のものとして生きているが、実は地球のどこかで、見知らぬ誰かが自分と同じような喜びや疲れを感じながら、並行した時間を歩んでいる。本作のラストシーン、帰路の機窓から見える空に添えたメッセージには、そんな「たとえ交わることのない平行な日常であっても、私たちは同じ空の下で共に生きている」という願いを込めた。

この映像を介した旅が、遠く離れた誰かの呼吸を、少しでも近くに感じるきっかけとなれば幸いである。

「しずかな通知音| Silent Ping

作:富石悠加

本作は、現代に生きる女子高校生が、ふとしたきっかけで“過去からのメッセージ”を受け取るという一瞬の体験を通して、「戦争の記憶」と「現代のつながり方」について再認識していく短編アニメーションです。

物語は、日常の中で平和学習の大切さがわからず、スマートフォンを手放せない少女に届く、ひとつの“しずかな通知音”をきっかけに始まります。
その通知には、かつてこの地に生きていた誰かの「声」が含まれており、それは1945年8月6日、原爆投下直前の広島からのものでした。
直接的な描写を避けながらも、戦争によって奪われた“当たり前の日常”を、現代の視点から静かに描いています。

戦後80年、戦争経験を知る人が少なくなった今、私たち若者にできることはなんだろうと考えました。そこで、SNSやスマホが当たり前となった今だからこそ、昔よりも多くの、世界の人に、私たちの言葉を届けることができる。私たちにしか届けられない声もあるのではないかと考えました。距離も時間も越えて昔の「想い」が現代に届くという、非現実的な話ではありますが、私たちはそれを世界に向けて発信することができるというメッセージを、印象的な静寂と、淡い色彩表現、繊細なアニメーションで表現しています。未来へと記憶をつないでいく作品です。

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2025年度ゼミ成果展 作品紹介2

「ターゲット」

作:齋藤篤志

この作品は、題名の通り、ターゲットがメインとなったフィクションの映像作品である。私の趣向として、日常の風景や連続した似た様子の中に少しずつ変化や面白みが発生するという表現が好きであり、この表現は鑑賞者に何を見せられているのかという疑念と、何が起こるのかという期待感を与えることができる。また、変化はあったとしても、似た様子の繰り返しは、鑑賞者の飽きを生んでしまうため、五日という設定に至った。

内容としては、メッセージアプリの映像から始まり、何らかのターゲットの情報を伝えられ、何かを指示される。

そしておそらくターゲットであろう男性を撮影者が五日間しつこく訪れる同じ構図の映像が続く。

その後にオチと言われる部分が来るが、そのオチはこの作品の真意を暴くものではない。撮影者は一体何者であり、何が目的であったのか、五日間の期限とは、などかなり謎が残る作品となっている。

シリアスな内容となり、作りこみが甘い部分もあるが、今回の制作を通して、この構成の流れで面白さをメインとした、よりクオリティの高い内容を作りたいと思うようになった。

「音」

作:塚田百合奈

本作は、ASMRという視聴者に安らぎや心地よさを与える映像形式を引用しながら、その期待を意図的に裏切ることを試みた作品である。映像では、パジャマ姿でカメラに向かい、木もおもちゃやぬいぐるみなど、身近な物を手に取り音を鳴らしている。しかし実際に聞こえてくる音は、視覚から予想される質感とは一致しない。軽く叩いた木箱から水音が響き、柔らかな人形からは硬質で鈍い音が鳴る。私たちは普段、視覚情報から無意識に音を予測し、違和感なく世界を認識している。

本作ではその感覚の自動処理を崩すことで、映像と音の関係性を改めて問い直す。心地よさを生むはずの形式の中にズレを生じさせることで、安心と不安の境界を体験させることを目的とした。映像と音がリンクしていないことに気づくと、映像ではなく音自体に意識が行く。「これは何の音を重ねているのか」と、視覚と聴覚がズレている前提で映像を見るはずだと考え、一部そのままの音と映像を用いているシーンがある。探してみてほしい。

「モンゴルの伝統文字とデザイン視点から見る異文化間の可能性」

「作:トルガ ノムンビレグト」

近年、私は自らのアイデンティティを見つめ直す過程において、モンゴル文化について改めて研究を進めている。これは私個人の問題にとどまらず、現代社会において多くの人々がそれぞれの独自性やルーツに目を向け始めている状況とも重なるものである。

モンゴル文化は、広大な自然と厳しい気候の中で生き抜いてきた生活の営みから形成された文化である。私はその中でも、世界的にも珍しい縦書き表記を持つモンゴル文字に注目した。モンゴル文字は流れるような造形美と独特のリズムを備えているが、デザイン分野からの研究は十分であるとは言い難い。そのため私は、文字の形態や構造、視覚的リズムを分析し、そこに内在する文化的美しさと現代的可能性を見出すことを試みた。

今後はこの研究をさらに発展させ、モンゴル文化の魅力をより多くの人々に伝えることを目指す。そしてその取り組みが、人々自身の文化やアイデンティティを見つめ直す契機となることを期待する。私たちは皆同じ人間であり、言語や文化の違いは「壁」ではなく、互いをより深く理解し共有するための機会であると考える。

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2025年度ゼミ成果展 作品紹介1

「誰もが発信者になる時代」

作:本間遼平

本作は「誰もが発信者になれる時代」をテーマに、個人メディアについて考えた作品です。昔はテレビや新聞など限られた人だけが発信できる時代でしたが、今はスマートフォン一つで誰でも自分の言葉を外に出せるようになりました。本作品では縦書きの文字を分散して配置し、複数の声が同時に存在しているような感覚を表現しています。あえて整えすぎない文章を用いることで、完成された意見ではなく、記録の途中にある言葉のリアルさを大切にしました。

またQRコードを入れることで、作品の外にも物語が続いていく構造をつくり、個人の発信が他の誰かの物語につながっていくイメージを示しています。自分自身が日常的に発信をしている実感をもとに、発信することの意味や、語ることと沈黙することの両方について考えるきっかけになればと思い制作しました。見る人が自分の発信について少し立ち止まって考える時間になればと思います。個人の記録が社会の一部になっていく感覚を形にしました身近な体験から発想した作品です。等身大の視点を大切にしました。日常の延長線上にある作品で学生としての視点から制作できました今の自分だから作れた作品であると考えます。

「ぷからいん」

作:近藤菜実

この作品は、ぷかぷかと空を旅するぬいぐるみをイメージした作品である。

私は今後、ぬいぐるみをテーマにし、自分のお気に入りのぬいぐるみたちと様々な場所・世界を旅していくというテーマの曲をシリーズで制作していこうと考えている。その第一歩として制作したのが、今回の作品だ。

今回の制作で使用したのは、Cubase(楽曲制作ソフト)とibis Paint・Procreate(イラスト描画アプリ)、Adobe After Effects・Premiere Pro(動画制作ソフト)である。

まず、Cubaseを使った作業では、キーボードで音を打ち込んで曲を作った。可愛らしくポップな曲になるよう、電子音や柔らかい音、キラキラした音を使用して制作した。

そして、イラスト・動画は、”空をぷかぷかと泳ぐ”というイメージで、雲の要素を入れるだけでなく、水面に浮かんでいるようなものにした。また、旅をする中で感じるドキドキを、ぬいぐるみのキャラクターの後ろでリズムを刻むハートで表現した。

この曲は、実はまだ未完成であり、あとは歌を入れて完成となる。この曲を含むシリーズ全体の曲は、完成次第、順次YouTubeにアップロードしていく予定である。

https://youtube.com/@minoru_orange?si=CkUbAIsAb9EoQLFe

また、今回のぬいぐるみのデザインは人に寄ったものになっているが、今後の曲では人だけでなく、幅広く様々な系統のぬいぐるみを登場させる予定である。

「_gradpj」

作:田川心桜

これは「作品」ではなく「企画書」である。なぜ作品ではなく卒業制作の企画書を展示することにしたのか。まず私の卒業制作は現時点でも、膨大な時間と綿密な調整が必要なことが分かっている。新しく作品を作るよりも、卒業制作に全力投球したいと考えた私は、4年生に進級する前のゼミ成果展を、 皆さんにご意見をもらう機会にしたいと、今回のような企画書展示に踏み切った。

また企画書を展示するにあたり、私の企画が視覚からも伝わるように、本企画の大事 な要素になっている“平成・昭和”を意識した雑誌風デザインに挑戦している。その点も企画内容と一緒に楽しんでもらえたら幸いである。

最後に本企画は構想段階であり、内容が変更になる場合も、なんならボツになる可能性だってある。 しかし少しでも私のやろうとしていることに、「面白そう」と興味を持ってもらえると幸いである。

【お願い】
この作品制作はまだ始まったばかりで、多くの懸念点が多く残っている状況です。そこで下に掲載しているQRコードから、ご意見を募集しています。 内容は、「これが見たい!」「この要素を入れてほしい!」 などなんでもかまいません。 皆さんのお声を聴かせて下さい。

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卒業制作・論文

2025年度卒業制作展 作品紹介3

『 Gossip Pigeon 』

作:中村 美月

現実社会や既存の SNSでは、私たちの発言は真を確かめることもなく『事実』や『公式な見解」として扱われ、責任を問われます。対してこのVR空間では、言葉は鳩によって媒介されることで、強制的に真不明で無責任な「噂話(Gossip)」へと劣化あるいは昇華されます。

この作品は、『事実』を、軽やかな「噂」へと変換する。鳩に免罪符をもらい、黒板に本音を残す。これは、繋がりすぎた世界で少し疲れてしまった私たちが、言葉との「ほどよい距離感」を取り戻すための、小さくてゆるい実験です。鳩がテーマに入っている背景には鳩には過去に伝書鳩として人々に正確な情報を伝達している反面、現代ではおとぼけやキャラクターとして認知されています。 

VRを用いた理由は、現実とデジタルの世界を完全に切り離すためです。スマホやパソコンと違い周囲の視線を気にすることなく、360度全てがデジタルの世界で構成されてしまう。この特性も利用して、体験者にギャップを与える試みをしています。 

『 Fetish core 』

作:林田 琴美

人は誰しも、言葉にしない欲望や関心を内側に抱えて生きていると思っている。  

本作は、性癖や性的欲求などタブー視されがちなテーマを、可愛くも不気味なビジュアルやシュルレアリスム表現を用いて昇華し、多様な嗜好を抽象化したイメージとして配置する作品である。

私は、可愛くて無垢なものが、ふと暴力的な振る舞いを見せる瞬間に強く惹かれてきた。当初はその「好き」自体をテーマに制作しようとしていたが、なぜ惹かれるのかを見つめ直すうちに、それが生殖本能や理屈とは結びつかない、言葉にできない本能的な欲動であることに気づいた。 癖や嗜好を辿ることは、その人の内面を覗き込む行為に近い。作品を鑑賞しているはずが、いつの間にか自分自身の内側を見られているような感覚に変わっていく。

本作は、その違和感や居心地の悪さやゾクゾクするような理由にできない好きを、私自身が好きな「可愛い」表現へと落とし込み、写真から動画、インスタレーションなどを1から製作しその人の癖を刺激しようとする試みである。本作は鑑賞者が何に惹かれ、どこで目を逸らすのかを体感的に問いかける表現である。 

『 たゆたう 』

作:東 あかり

当初、本作は悲惨な人生を歩んだ若者の実話をもとに構想した。インタビューやロケハンを重ねる中で理解が深まる一方、自身が対象を理解したかのような安易な同情に近い感情を抱いていることに気づき、強い違和感を覚えた。ある晩、食事中に遠い国で続く戦争のニュースを目にし、恐怖や飢えにさらされる人々を想像しながらも、手を止めず食事を続ける自分の姿に戸惑いを覚えた。私たちは無数の人生や感情に囲まれて生きているが、多くは触れ合うことなくすれ違う。

本作は、他者の人生が個人の感情とは無関係に並行して進行していると認識したときに生まれる恐怖と虚しさを主軸とした。その表現として鏡を用い、生と死の狭間から現在を映す媒体として位置付けた。さらにAI生成映像を取り入れ、視聴者が映像の真偽を判断する過程を揺さぶり、現実と虚構の境界を曖昧にすることで、他者理解の不確かさを可視化した。 

『 jam 』

作:米原 圭一

デジタルで背景を製作し、コピー用紙に印刷した。その上にスタンプや、版画を用いて手作業でインクをのせ、アニメーションを製作した。この技法を用いることで、アナログでしか生み出すことの出来ないインクの重なりや、独特のノイズ感を演出することが出来る。 

作品制作にあたり、3DCGで舞台となる島を形作ることから始めた。この島は、私の実家がある町をモデルにして製作している。 

ストーリーのメインテーマとして、脳出血になった父と、それを支える母のことを考えながら製作した。 

海に面した陸の孤島のような町、ルーティーンの様な日常を繰り返す中で、感じるやるせ無さや倦怠感、少しの幸せを表現することを意識した。 

作品の中に登場する要素として、人混み、魚、魚群、ジャムがあるが、これらは全てjamの要素に含まれる。 

実際に、人々が液状化し、頭がブルーベリーの様なものにメタモルフォーゼするシーンや、魚が籠にギュウギュウ詰めにされているシーンを通して、私なりのjam感を描いた。 

私は、日常を生活していく中で、粘度の高い物の中を流されている様な感覚を覚えながらも、時折喜びを感じることがある。この感覚を、この世の物で表現する際に、最もピンとくるのが、ジャムである。 

父の病により、複雑にかき混ぜられた日常ではあるが、そこにはこれまでの人生から溶け出した幸せもある。という意味も含めて、タイトルをjamとした。 

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卒業制作・論文

2025年度卒業制作展 作品紹介2

『 気配 』

作:桑原 百加

私たちの周りは、たくさんの情報で溢れかえっている。太陽フレアの強さ、地震発生数、気温、データ通信量、そして人の鼓動まで。
私は、目に見えない世界に触れたいと思い、1年生の時から制作を続けていた音楽でそれらを形取ろうと思った。データを音に変換し、そこに光と映像を加えて表現した。


嘘も真実も混ざり合う情報社会の中で、情報とどのように向き合い、何を信じていけば良いのか。このテーマは、今後私たちが長く付き合っていくもので、これを作品で表現したいと思った。この作品で扱っているデータも、元は正しい情報だが、私の解釈、つまりサウンド化というフィルターのかかった情報に形が変わっている。

また、ただ生活しているだけでは意識しないような宇宙や、規模が大きすぎて実感しにくい世界人口推移などのデータを使用し、自分が生きている地球そのものを間接的に感じて欲しいと思った。加えて、気温などのデータは特定の地域に限定されないように、世界各地からランダムに取集した。

この作品を通して、自分の住むこの世界の気配を感じてもらえたら嬉しい。

『 observer      les gens 』

作:谷奥 桃花

この作品は、私が中学生から続けている人間観察がテーマだ。
人間観察を始めたきっかけは、長時間通学の時間を有効活用したくて必死に楽しいことを探した結果だった。妄想が私の中でのエンタメになっていた。妄想が好きで探求し続けたら、「人間」が、その人間が作る「日常」が大好きになっていた。そのうちに自分と他者の日常の違いに気づいた。そこに学びや前向きになれる気づきがあったので、この感覚を残し、共有してみようと考え制作した。 

コンセプトは、私の視点からの分析、そこから繋がる妄想の追体験である。ありふれた日常の中で目に見える情報から、その人の好みや属性、行動パターン、居住地域、人間性、複数人だったらその人達の関係性、その人がどんな気持ちで今そこに居るのか、行動の背景、状況、想像できる限りのあらゆることを想像してしまう。 

そこで、私の目線カメラで撮影したものにテロップをつけ、私の思考を視覚化し、没入感を出した。隠しカメラで撮ったように見える画角で撮影し、対象が撮られている意識がない映像にした。盗撮してはいけないけど、どこにでもカメラがある現代社会、その感覚のズレも表現した。 

『 ラムネ 』

作:土持 彩夏

本作品は、刹那的に欲したものを手に入れた瞬間に感じる「期待していたものは虚構であった」という喪失感・虚無感をテーマにしています。この感覚を、少女がラムネ瓶の中のビー玉を救い出そうとする経験に投影して表現しています。瓶を割って取り出したビー玉が、市販の変哲もないものだと気づき落胆する。「手に入らないからこそ魅力的に見える」という人間の心理が、制作の動機となっています。 

表現手法として、ラムネが持つ「懐かしさや爽やかさ」というイメージに、相反する人間の「欲望」や「葛藤」を微かに辛い炭酸として溶け込ませています。具体的な演出では、実写映像の炭酸を「欲望」に見立て、その泡が消える様子で「記憶の風化」を暗示しています。 

また、アニメーションでは男性が惹かれた瞬間に壊れてしまう女性を描き、ラムネのエピソードを「恋愛」に例えて表現しました。展示された無機質なビー玉は、特別だったはずのものが他と区別できなくなる「無力感」を象徴しています。鑑賞者に対し、自らの人生における後悔や達成感、不足感といった複雑な感情を、炭酸の刺激のように懐古させることを目指した作品です。 

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卒業制作・論文

2025年度卒業制作展 作品紹介1

『 スーパーポジション 』

作:塚本 マーク達美

「スーパーポジション」とは、複数の状態が同時に重なり合い、観測によってはじめて一つの結果として定まる量子論的な状態を指す。本作品では、それを物理学的な意味に留めず、現実とバーチャル、実体と虚構、観測者と被観測者といった対立する要素が等身大で重なり合う「体験の場」として提示した。


 展示は二つの作品『ユージン』と『プレゼンス』から成り、『ユージン』では、スクリーン越しに作者と観客が向かい合うことで「人がそこに在る」という事実の強度を体感し、『プレゼンス』では、もう一人の住人と同じ部屋を共有するかのような体験を通じて「存在を感じ取ってしまうこと」そのものを問い直した。二作品はそれぞれ異なるアプローチを取りながらも、いずれも“存在の不確かさと確かさが同時に立ち現れる”瞬間を主題としている。


 本展示は、バーチャル空間とフィジカル空間の境界を探る試みとして、XR表現における実在性のスペクトルに焦点を当てた卒業制作である。既存のVR/AR表現とは異なるアプローチとして、モーショントラッキングやPortalgraphといった複数のアプリケーションを用いながら、バーチャルと現実の融合を新たな視点から立ち上げることを目指した。 最終的に採用したPortalgraphは、鑑賞者の位置関係に応じて、モニターの向こうにある空間がひとつの正しい像として結ばれる技術である。このたった一人の観測者を基準とする構造には、量子力学における観測問題との親和性があり、観測という行為が世界の構造に直接影響を及ぼすという量子的な面白さを持っている。私はこの特性を活かし、重なり合う二つの次元、バーチャルとフィジカルを可視化することを制作の主題とした。 本展示では、このテーマに基づき、量子力学における「量子重ね合わせ(Quantum Superposition)」に着想を得た二つの作品『プレゼンス』および『ユージン』を展示している。

『プレゼンス』では、現実と見まがうバーチャル空間に、鑑賞者以外の誰かの気配が漂う構造を通して、存在の不確かさと観測による実在の確定を体験として提示した。 

一方『ユージン』では、箱の中にいる作者自身の動きとバーチャルなシルエットが観測者の視点で重なり合う構造を通じて、観測関係の二重性とそのズレを浮かび上がらせている。 バーチャルと現実の空間が完全に一致することはなく、常にほつれやズレが生じる故に、時に重なり合うそれらがもたらすバーチャルな存在の質量感に本展示を通じて、観測者が空間にどのような実体を与えるのか、その役割を体感し、考えるきっかけとなれば幸いである。

『 (TRACE) 』

作:飯干 裕太

一定の形を保つことができない水滴を通して、様々なモノを見つめる。普段の生活では見ることがない、水滴を通してモノをあらゆる角度から見つめる映像を、ストップモーションを用いて制作した。


コンセプトは、人間の「主観」の再構築である。人間がモノを知覚するプロセスの一つにある、感覚→主観→推定・断定・ゲシュタルト→知覚の「主観」の部分を今回展示した映像によって再構築を促す試みである。
ここでいう「主観」とは、自身の経験則や知識を取捨選択する行為であり、この行為の選択肢の一つに水滴から見た景色の情報を追加させることで、鑑賞者のその後の生活において物事を知覚する際、新しいモノの見方を提示できるのではないかと考えている。モノから反射された可視光は、水滴によって乱反射・屈折し、反転、あるいは歪んだ形で鑑賞者の目を刺激することになる。普段の見え方とは違う見え方を示し、人がモノを知覚するプロセスを複雑にしたり、新しいゲシュタルトの生成を映像によって促すことで、「今見えている景色をそのまま受容しない」ということを伝えたい。

また、目の分解能に着目したポスターも制作した。紙を緩やかに曲げたポスターであり、目から受け取る情報はほんの一部であること、全ての自然の情報を視覚で受け取った際、その時の時間間隔は大きく異なってくることを示した。 

『 架空アイドルプロデュース『Dream★Timer!』〜表現の自由と、その先にあるもの〜 』

作:岡 里帆子

本制作は「大麻」をコンセプトとした架空のレゲエアイドル「Dream★Timer!」のプロデュースを通じ、SNS上での実在性の構築と、表現が直面する社会的制約を記録したアーカイブ作品です。 

プロジェクトの核となるのは、半年間にわたるSNSでの「実在の擬態」です。友人の協力を得て作り上げたフィクションでありながら、日々の投稿や活動報告を継続することで、画面の中に確かな存在感を創出しました。結果として、総フォロワー数は1,300人を超え、多くの反響をいただくことができました。 

展示は二部構成となっています。第一部のポップアップイベントでは、これまでに公開してきたミュージックビデオや衣装、グッズなどを展示し、SNS上で作り上げたアイドルの完成形をご覧いただきます。 

第二部では、その完成形に至るまでの裏側を公開しています。本物のアイドルだと信じてもらうためにSNSで積み重ねた細かな工夫や、実際にユーザーから届いた生の声、そして制作過程で直面した社会的制約や様々な問題について赤裸々に展示しています。当初の計画が現実の壁に突き当たり、変容せざるを得なかった経緯を可視化することで、表現の難しさと、その果てに辿り着いた「形」の在り方を問い直す、私自身の気づきと実践の軌跡です。 

『 びっくりチキポン 』

作:小野 真侑

誰もが、人には言えない本音を抱えています。それらは、相手を傷つけないように、また場の空気を悪くしないように配慮した結果、行き場を失ってしまった感情です。本作品は、そのような感情を外に出せる場をつくるために制作しました。 

しかし、感情を吐き出す場は、どうしても重たい空気になりやすいという側面があります。そこで、チキンという存在を介在させることで場の空気を和ませ、深刻な話題でも笑いに変えることができるのではないかと考えました。 

この作品は、自分の本音をチキンの口から投入することで、別の誰かが入れた本音を受け取ることができる装置です。他者の本音を受け取る体験を通じて、感情が一方的に放出されるのではなく、循環していくことを意図しています。誰かの本音を受け取り、笑うことで、いつか自分の本音もまた誰かに届き、笑い話として受けとってもらえるかもしれないと気づくことができます。 

また、チキンが自らの意思で人の本音を選び、別の人に届ける役割を果たしている様子の動画も展示しています。完全にチキンの判断に委ねることで作者や機械の存在を薄め、より本音を吐き出しやすい環境にしました。誰も傷つけず、笑いに変えて誰かに届けることで、どうしようもなかった感情を救うことができるのではないかと考えています。 

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2024年度ゼミ成果展 作品紹介4

「教授ガチャポン」

作:小野真侑

1年生の時に教授と仲良くなりたいという思いから企画し、毎年学祭で販売していた作品です。今回の展示では、販売は行わずに今までの作品と、さらにブラッシュアップしたものを3種類追加し全7弾の展示を行いました。さらに、3Dプリンタで教授の胸像を模したカプセルトイの筐体を制作しました。展示を見た人が少しでも教授を身近に感じられたら嬉しいです。

「Peel」

作:岡里帆子

現実でうまくいかない女の子が、シールの世界で、自分の理想を作り上げる物語。女の子の中では、境を作っていた2つの世界がリンクしてしまい、大切なものを傷つけてしまう。幸せな時間は一生続くわけではない。そんな言葉を頭に浮かべながら、自分が1番撮りたいと思っていた「シール帳」という女の子の可愛い空間の中に、少し残酷な内容を足しました。

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2024年度ゼミ成果展 作品紹介3

「とりとはち 」

作:東あかり
インスタレーション作品


the birds and the beesはこどもに性を教える際に英語圏で使われる抽象的な言い回しである。
この言葉を知った時、なぜ子供への性教育はいつも婉曲的に行われるのだろうかという疑問に思った。また、両親の行為を見てしまった子供はその後精神にダメージを受ける事例が見られるという研究を拝見したこともあり、今回、性を生業にする家庭で育った子どもが婉曲的な性教育を受けたらどうなるのか興味が湧き、ピンサロを経営する母姉弟の3人暮らしの家庭が舞台の作品を制作した。
家庭的な雰囲気とピンサロ店を融合させた展示物やこの家であった残酷な事件を想像させる仕掛けを各所に配置した。また、プロジェクターで投影している映像を鏡に反射させることで、登場人物の頭の中を探っていく感覚を表現した。

「jam」

作:米原圭一

日々を過ごす中で感じる怠さと、身の丈をブルーベリーとジャムに例えて表現することを目的としたアニメーション。
作業工程を全てアナログな手法で行い、デジタルでは生まれない温もりを表現することを試みた。
今後は個体や液体を紙面に配置し、ストップモーションの技法を組み合わせることで、被写体から生まれる光と影や、透け感、染みを用いた表現を試みる。

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2024年度ゼミ成果展 作品紹介2


「アッシーくんと作る!毎日の朝ごはん」

作:中村美月

この作品では、3Dを用いて理解できそうで理解できないようなシュルレアリズムを表現した。特にこだわったのは、カメラワークとナレーションである。Blenderの技術も向上し、ドリーズームやキャラクターの動きに合わせたカメラワークなどを取り入れた。
ナレーションは、ほとんどが淡々としているがまれに感情的に話しすなど、映像が単調にならない工夫をした。動画の構成にはお昼の料理番組やSNSのショート動画などを参考にして制作した。空想の食材や料理を3D特有の技術を使って考案するのは楽しかったが、技術面で表現できなかったことも多かったので、今後も向上心を持って制作に臨んでいきたい。

「 level.0」

作:林田琴美

私はDreamcore文化という夢で見たことのあるような不気味な空間に惹かれると同時に、kawaii文化にも興味を持っています。
このふたつを融合させることで自分ならではの表現や世界観が生まれるのではないかと考えました。そこで3Dと手描きアニメーションをかけあわせ、可愛らしさを表現しつつ不気味でどこか目を逸らしたくなるような音楽や演出を取り入れることを試して見ました。
今後は技術面の向上に力を入れると共に、ストーリー性も考えられるようにし、没入感のある作品を生み出していこうと思います。

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2024年度ゼミ成果展作品紹介1

「異世界転生部屋」

作:桑原百加

日常と隣り合わせにあるかもしれない非日常に気付いてほしいという思いで、この作品を制作しました。普段何気なく行っていることや、普段よく見るものが、実は異世界転生の手段だったというような、物の見方が傾くような体験を提供したいと考えました。ただ転生方法を並べるだけではなく、なぜその行動をするのかという理由まで突き詰めて考えることで、転生のリアルさを演出しました。さらに、お香をたいたり、部屋を暗くするなど、空間の演出も工夫しました。順路に沿って黒いビニールで壁を作り、転生儀式以外の情報を遮断するようにしました。また、成果展のアンケートを利用し、最後に転生を匂わせるような質問をいくつか設け、尾を引くような体験が出来るようにしました。

「モノのアイデンティティを奪う実験」

作:土持彩夏


この実験のきっかけは、街を散策している際に中学生くらいの男子がゴミ箱を蹴っている様子を見て「モノに当たる」ことに対して友人と意見を交わし日常的に根付いている「アニミズム」について考えたことです。「アニミズム」とは、自然界のあらゆるものには霊魂や精霊が宿っていると考える信仰のことです 。
先程のような物を感情任せで傷つける行為は、一般的に望ましくないと考えられる。しかし、私たちは一度モノを解体して改良したり捨てたりすることに関しては、決して「暴力(八つ当たり)」ではなく当然であると受け入れられている。より良いモノへと進化させるために、破壊する行為と暴力性を持った破壊する行為の境目はグラデーションのようになっている。そこで、私は実験的に一見モノが本来求められている役割が果たせないような仕掛けを行うことにした。
これらは果たして、「暴力的」なのか「進化」なのか。自由に捉えてほしい。