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卒業制作・論文

2025年度       卒業制作展 作品紹介3

『 Gossip Pigeon 』

作:中村 美月

現実社会や既存の SNSでは、私たちの発言は真を確かめることもなく『事実』や『公式な見解」として扱われ、責任を問われます。対してこのVR空間では、言葉は鳩によって媒介されることで、強制的に真不明で無責任な「噂話(Gossip)」へと劣化あるいは昇華されます。

この作品は、『事実』を、軽やかな「噂」へと変換する。鳩に免罪符をもらい、黒板に本音を残す。これは、繋がりすぎた世界で少し疲れてしまった私たちが、言葉との「ほどよい距離感」を取り戻すための、小さくてゆるい実験です。鳩がテーマに入っている背景には鳩には過去に伝書鳩として人々に正確な情報を伝達している反面、現代ではおとぼけやキャラクターとして認知されています。 

VRを用いた理由は、現実とデジタルの世界を完全に切り離すためです。スマホやパソコンと違い周囲の視線を気にすることなく、360度全てがデジタルの世界で構成されてしまう。この特性も利用して、体験者にギャップを与える試みをしています。 

『 Fetish core 』

作:林田 琴美

人は誰しも、言葉にしない欲望や関心を内側に抱えて生きていると思っている。  

本作は、性癖や性的欲求などタブー視されがちなテーマを、可愛くも不気味なビジュアルやシュルレアリスム表現を用いて昇華し、多様な嗜好を抽象化したイメージとして配置する作品である。

私は、可愛くて無垢なものが、ふと暴力的な振る舞いを見せる瞬間に強く惹かれてきた。当初はその「好き」自体をテーマに制作しようとしていたが、なぜ惹かれるのかを見つめ直すうちに、それが生殖本能や理屈とは結びつかない、言葉にできない本能的な欲動であることに気づいた。 癖や嗜好を辿ることは、その人の内面を覗き込む行為に近い。作品を鑑賞しているはずが、いつの間にか自分自身の内側を見られているような感覚に変わっていく。

本作は、その違和感や居心地の悪さやゾクゾクするような理由にできない好きを、私自身が好きな「可愛い」表現へと落とし込み、写真から動画、インスタレーションなどを1から製作しその人の癖を刺激しようとする試みである。本作は鑑賞者が何に惹かれ、どこで目を逸らすのかを体感的に問いかける表現である。 

『 たゆたう 』

作:東 あかり

当初、本作は悲惨な人生を歩んだ若者の実話をもとに構想した。インタビューやロケハンを重ねる中で理解が深まる一方、自身が対象を理解したかのような安易な同情に近い感情を抱いていることに気づき、強い違和感を覚えた。ある晩、食事中に遠い国で続く戦争のニュースを目にし、恐怖や飢えにさらされる人々を想像しながらも、手を止めず食事を続ける自分の姿に戸惑いを覚えた。私たちは無数の人生や感情に囲まれて生きているが、多くは触れ合うことなくすれ違う。

本作は、他者の人生が個人の感情とは無関係に並行して進行していると認識したときに生まれる恐怖と虚しさを主軸とした。その表現として鏡を用い、生と死の狭間から現在を映す媒体として位置付けた。さらにAI生成映像を取り入れ、視聴者が映像の真偽を判断する過程を揺さぶり、現実と虚構の境界を曖昧にすることで、他者理解の不確かさを可視化した。 

『 jam 』

作:米原 圭一

デジタルで背景を製作し、コピー用紙に印刷した。その上にスタンプや、版画を用いて手作業でインクをのせ、アニメーションを製作した。この技法を用いることで、アナログでしか生み出すことの出来ないインクの重なりや、独特のノイズ感を演出することが出来る。 

作品制作にあたり、3DCGで舞台となる島を形作ることから始めた。この島は、私の実家がある町をモデルにして製作している。 

ストーリーのメインテーマとして、脳出血になった父と、それを支える母のことを考えながら製作した。 

海に面した陸の孤島のような町、ルーティーンの様な日常を繰り返す中で、感じるやるせ無さや倦怠感、少しの幸せを表現することを意識した。 

作品の中に登場する要素として、人混み、魚、魚群、ジャムがあるが、これらは全てjamの要素に含まれる。 

実際に、人々が液状化し、頭がブルーベリーの様なものにメタモルフォーゼするシーンや、魚が籠にギュウギュウ詰めにされているシーンを通して、私なりのjam感を描いた。 

私は、日常を生活していく中で、粘度の高い物の中を流されている様な感覚を覚えながらも、時折喜びを感じることがある。この感覚を、この世の物で表現する際に、最もピンとくるのが、ジャムである。 

父の病により、複雑にかき混ぜられた日常ではあるが、そこにはこれまでの人生から溶け出した幸せもある。という意味も含めて、タイトルをjamとした。