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ゼミ生 卒業制作・論文

2024年度卒業制作展  作品紹介4

『 【volti subito】
 (ヴォルティ・スビト)
 「急いでページをめくれ」 』

作:井本彩奈

美しい夕焼けに心を奪われ、愛読書との再会に喜び、怪我の痛みを感じ、好きな音楽に高揚し、友人との別れを惜しみ、大切な人の死を悼む。
生きている我々は、様々な感情を同時に、あるいは連続して経験する。

私は、作品鑑賞後の余韻の時間が好きだ。
しかし、人生はそんな静かな余韻に浸る暇を与えてくれない。
様々な感情がまるで楽曲のように、次々と流れ込んでくる。

この作品は、そんな感情の断片を捉え、形にしたものだ。
喜び、哀しみ、愛しさ、そして孤独。
それらは人生という大きな楽章の中の、たった一つの音符にすぎない。
しかし、その音符一つ一つが、私という人間を形作っているのだ。

「volti subito」
音楽用語で「急いでページをめくれ」という意味を持つこの言葉は、人生そのものを表しているように感じる。
感情のページをめくり、次の感情へと進んでいく。
それが人生という、壮大な楽曲なのだ。

『 異化の作業 』

作:林茜

この作品のテーマは生前葬です。私の全身をスキャンして3Dプリンターで出力した制作物を鑑賞者に破壊させ、それを拾い集めてひとつの箱に収めることで完成となります。これは故人を火葬した後の収骨の過程をなぞらえています。

この作品における破壊行為は、近年見られるような文化浄化を目的としたものや反美学的姿勢によるものではなく、鑑賞者にモノをモノとして再認識させるためのプロセスとして組み込まれています。

今回、私自身の生前葬を執り行う上でこの過程を表現の方法として選んだのは、私が故人を初めてモノになったと認識した行為が「故人だったものの破壊」だったためです。

故人は火葬された後、骨壺に収めるため、大きな骨は折られ、かさばるようであれば上から押しつぶされ、細かくなった欠片や骨粉はミニほうきとちりとりでかき集められます。その作業はどれだけ丁寧であっても、人間に対してすることとは思えませんでした。この経験を踏まえ、破壊とは物質から魂を取り出す行為であると解釈し、この作品を異化の作業と名付けました。

『 無題 』

作:三ッ井翔大

テーマは「夢」「学校の美化」です。

よく作品においては「学校」はノスタルジックに、「学校生活」はかけがえのない素敵なものとして描かれています。これは自分の記憶においてもそうです。クラブでサッカーボールを追いかけて いた記憶、生徒会活動の記憶、その時の友達。そういったキラキラした記憶で私の眠っているとき の夢は構成されています。その自分の「夢」という空間に顔もあやふやな登場人物が紛れ込む世界 を表現しました。VR機器を被った人がその場で他人の考えた世界に入り込める技術自体、思い描いた夢のような技術だと思っています。

そして、それに伴って世の中の学校というものが、あまりにも美化されすぎているとも思います。もちろん人それぞれ辛い記憶や学校にいい印象を持っていない方もいると思いますが、特にアニメ、漫画、ドラマ、フィクションの世界においてはキラキラした世界ではないでしょうか。

それ故に私は、その後の世界が逆に暗いものに見えます。

楽しさよりも「充実感、責任感、ストレス、社会問題」そういったものが描かれがちです。また、今のソーシャルメディアは、刺激的な映像で溢れ、人が傷つく情報が拡散される。それに共感できるからインプレッションが稼げる。観られるからそのような映像や情報がまた流される。そういった仕組みになっています。これによって学校と結びつくものとは対に、目に付くものが暗鬱としたもので溢れているように感じませんか。

私の価値観では人生のピークは「学校生活」です。その先をまだ生きていないので当たり前かもしれませんが、それくらい今まで取り入れてきた価値観の中にこの先の希望がない、そして学校が美化されすぎています。

学校生活だけでなく、今の社会が色々な人生の「楽しさ」を表現する作品で溢れることを願っています。

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2024年度卒業制作展  作品紹介3

『 ドキュメンタリー女探偵わか 』

作:白石資陽

Screenshot

この作品は、佐賀に住んでいる人なら誰でも一度は見たことがあるであろう、女探偵わかを主人公としたドキュメンタリー作品である。インタビュー映像や実際の探偵業務の映像を通して、女探偵わかの人物像、実際の仕事の内容、仕事に対する想いなど「女探偵わか」という存在の実態を浮き彫りにしていく。

また、女探偵わかの象徴ともいえる、広告看板にも焦点をあてている。作中の女探偵わかの言葉から分かるように、広告看板は苦しむ人々の救いになりたいという女探偵わかの思いから建てられている。一方で、地域の魅力をつくるうえで欠かせない景観を守りたい、子供に見せたくないなどといった世間からの批判的な意見があるのも事実である。

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不倫や浮気を許さない一般社会では、浮気調査と大々的に書いてある看板には、懐疑的、批判的な目が向けられる。しかし、不倫問題に苦しむ人々も数多くいる。視聴者がこの問題を自分事として捉えるきっかけになるような作品になればと思う。

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『 修羅場つめ 』

作:堀口琉愛

私の卒業制作は、3年時成果展のテーマとなっていた『人に言えない研究』からスタートしている。

このテーマについてどの様に取り組むか考えた際に思いついたのが、当時私が特にハマっていた『修羅場』を取り扱ったコンテンツだった。

主に不倫や夫婦間のトラブル、そしてそれに伴う復讐劇を扱うそれらのコンテンツは、注目してみれば日常の至るところに溢れているが、それを見ている事や楽しんでいる事はあまり公には言わない人が多いだろうし、ましてやそれらをアートや芸術だという認識で見ている人は殆どいないだろう。

また今回の作品でも、成果展時と同様に私は特に2chを題材に用いている。

本人たちですら『こんなところにいるような奴らは・・・』と自分達を卑下する様な姿勢が前提にあり、話し手と聞き手の反応を含んだやり取りが一体となって一つの作品の様に見える、という点を特に面白いと感じたからだ。

展示は敢えて床に貼ることで、普段は目に付かないような、そして誰も本来作品を展示したがらないような場所にこういったコンテンツは普段配置され、そして密かに人々に楽しまれているのだという事を表現した。

気軽にどこででもみることができる、参加することのできるコンテンツが身近にあること、そしてそれを楽しんでいる人もまたとても身近にいるのかもしれない、ということを考えるきっかけになれれば、と思う。

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2024年度卒業制作展  作品紹介2

3つの事例から見る現代社会においての 人の運命的な出会いについての研究;  ショートフィルムオムニバス

作:桶本優

3つのショートフィルムをオムニバス式に上映。

『旅立つ老人と或る大学生』『泥棒と小さな女の子』『黄色い帽子の大学生とサングラスの留学生』の出会いとそれによるキャラクターの変化を描く。

心を動かす映像には「衝撃」という要素が必要である。死・暴力・不倫などのテーマは「衝撃」との親和性が高いが、今回それらを避け「優しい衝撃」に挑戦した。そのために、言動の要因と結果をすこし遠ざけたり、キャラクターに感情を語らせなかったりしている。

本作のキャラクターは、少し不器用で愛おしい。鑑賞者は優しく見守ってしまうが、気づくと鑑賞者側が大切な何かを心に訴えかけられるかもしれない。高い理想を全員の必要かのように押し付けられる現代に、不器用な彼らを描かなくてはならない。

また、編集・選曲などに異国情緒を感じるのも特徴である。個人的な好みも関係してはいるが、今回は別世界にいざなうことが目的である。フィクションを、フィクションらしく距離をとって描くことで、映画における現実逃避というひとつの役割を強調した。ここに書いたことは、さほど意図してそうなっているわけでなく、ただ俯瞰的に分析した結果である。だから、観る人には頭より心で受け取ってほしい。本作が放った優しい衝撃で、誰か一人でもいいから2週間くらい優しい気持ちになれば嬉しい

『 under the rose 』

作:津留さくら

この作品のテーマは秘密と感覚。

近年、人に言えないことを抱えた若者たちが行き詰まり、自傷行為や不登校になるケースが増えている中、私自身の経験を通して、こうした秘密を抱える人々が集える場所を作りたいと思った。

私は、自分のことを俯瞰する感覚、デジャヴや正夢を感じる感覚がある。

自分でこのことについて深く考えると少し怖くもなり、あえて人に話さずに生きてきて、自分にとっての大きな秘密になった。

その一方で、もしかしたら同じような感覚を持つ人がいるかもしれない、見つけることができたら面白いなという好奇心もあった。

そのため、私の作品は、自分の特異な感覚を昇華させ、共有することで、他者の秘密にも触れられる平等な空間の形成を目指している。

展示には、私が抱える感覚以外の秘密をもったオブジェや、作品に添えられた文章は、私がこの10ヶ月間に直面してきた葛藤や戸惑いを記録したものであり、私自身の秘密と感覚を深く見つめ直す過程を反映している。

この展示を通じて、来場者それぞれが自分自身の秘密や感覚に対して考えるきっかけとなり、見ず知らずの人と共有することで、心が軽くなるような場が生まれることを願っている。

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2024年度卒業制作展  作品紹介1

『 扶け 』

作:杉山伊玖海

SNS に蔓延る男女叩きへの苛立たしさから、フェミニズム映画の新しいジャンルとしての確立を目指し制作した。

脚本を制作するにあたり、主人公を男性にして、試練に立ち向かう姿でストーリーに盛り上がりを見せつつ、女性が抱える問題に対して俯瞰して見られるように意識した。夫婦がお互いにどう歩み寄るべきかを主人公とともに模索できる物語なのだ。

ラストはハッピーエンドに見えるが、女性の秘めた強かさによって困難を乗り越えていることも1つのポイントである。果たして二人はお互いを見つめ直すことが本当にでき、今後幸せになることはできるのか否かは視聴者に委ねたい。

『 emotion graphic 』

作:中田結泉

人間は生物の中でも言語、手振り身振り、文字などあらゆる手段で感情を表現、または読み取るコミュニケーションを行うことができる

では芸術に対してはどのような情報を読み取って“感情”を判断するのだろうか

明確な文字と言葉を使わず色と形で織りなす芸術に人間が感じる“感情”の基準とは何か

人間の感情の分類は色相環と似ており、基本となる色だけで色々な色が作り出せるように、感情も基本となる8つの感情(喜び・信頼・恐れ・驚き・悲しみ・嫌悪・怒り・期待)から色んな感情が生まれるという「プルチックの感情の輪」が存在する

プルチックの感情の輪では二つの基本感情が同時に起こると人間特有のの高度な感情が生まれる。

例えば「喜び+信頼」の二つの感情が同時に起こると「愛」が生まれるのだ。

人間の感情の種類は多く、このプルチックの輪を使えばより心の底から感じた本当の思いが自覚でき判断できるようになるかもしれない

この説を踏まえつつ、世界観が異なる映像作品を視聴した人たちの感情を集め、他の人と自分の生まれる“感情”の違いを皆んなで見られるようになれば面白いのではと思い制作した